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神戸地方裁判所 平成元年(ワ)64号 判決 1992年2月07日

原告

吉田兼敏

被告

平見昭夫

ほか一名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告平見昭夫(以下「被告平見」という。)は、原告に対し、金六四六万一七〇七円及びこれに対する昭和六二年一月二〇日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告東京海上火災保険株式会社(以下「被告会社」という。)は、原告に対し、金七三八万六三〇〇円及びこれに対する昭和六二年一一月一日から完済まで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

(被告平見に対する請求関係)

1(交通事故の発生)

次の交通事故が発生した(以下「本件第一事故」という。)

(一)発生日時 昭和六二年一月二〇日

(二)発生場所 神戸市中央区御幸通八丁目一番六号先道路(以下「本件事故現場道路」という。)

(三)加害車両 被告平見運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

(四)被害車両 原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

(五)事故態様 原告車が本件事故現場道路を右折しようとしたところ、右側方から直進してきた被告車の左前部と原告車の右側後部とが衝突した。

2(原告の受傷内容、治療経過及び後遺障害の内容・程度)

(一)原告は、本件第一事故により、外傷性頸部症候群、腰部捻挫、左足打撲捻挫の傷害を負つた(以下「本件受傷」という。)。

なお、本件第一事故は、原告車が、第二車線からいつたん第三車線(右折車線)に車線変更し、第三車線上で対向車の通過を待つため停止しようとしたところ、停止する直前に、右側方から相当なスピードで直進してきた被告車と衝突したものであつて、軽微な接触事故ではなかつた。

本件第一事故の衝撃により、原告は、座席後部や枕の部分に上半身を打ちつけた。

(二)原告の治療経過は、次のとおりである。

(1) 入院

宮地病院に昭和六二年一月二〇日から同年二月一二日まで入院した。

(2) 入院

甲北病院に昭和六二年二月一三日から同年七月二〇日まで入院した。

(3) 通院

甲北病院に昭和六二年七月二一日から現在まで通院中である。

(三)原告の本件受傷は、昭和六三年一〇月三一日症状固定し、後頭部痛、頸部痛、左足背部疼痛の後遺障害が残存している(以下「本件後遺障害」という。)。

本件後遺障害は、自賠責保険後遺障害等級一二級に相当するものである。

3(被告平見の責任原因)

(一)原告は、原告車を運転し、本件事故現場道路を南進して、右折しようとしたところ、被告車が、右側後方から直進禁止(右折専用)の規制に違反して直進してきた過失により、本件事故が発生した。

(二)よつて、被告平見には、民法七〇九条により、原告が被つた後記4の損害を賠償すべき責任がある。

4(損害)(なお、治療費については、労災保険等により支給されているため、請求から除外している。)

(一)入院雑費 金一四万三〇〇〇円

一日当たり金一〇〇〇円で一四二日分

(二)休業損害 金五五万六四六四円

日額金四三六一円のうちその八割については労災保険により支給されているため、その残額二割分について昭和六二年一月二一日から昭和六三年一〇月三一日までの六三八日分

(三)逸失利益 金一五九万二二四三円

(1) 基礎収入額 日額金四三六一円

(2) 労働能力喪失率 一四パーセント

(3) 労働能力喪失期間 一〇年間

(4) その新ホフマン係数 七・一四五

(5) 計算式

四三六一円×三六五日×〇・一四×七・一四五=一五九万二二四三円

(四)慰謝料 合計金四一七万円

(1) 入・通院分 金二〇〇万円

(2) 後遺障害分 金二一七万円

(五)以上合計額 金六四六万一七〇七円

よつて、原告は、被告平見に対し、民法七〇九条に基づき、本件損害賠償額金六四六万一七〇七円及びこれに対する本件事故発生日である昭和六二年一月二〇日から完済まで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告会社に対する請求関係)

5(入院中の自損事故の発生)

原告は、本件受傷を治療するため甲北病院に入院中の昭和六二年六月一三日、所要のため原動機付自転車を運転して自宅へ行く途中、道路脇の側溝に転落し、右肺損傷等の傷害を負い、その結果、右同日から昭和六二年一〇月八日まで右病院において入院治療(一一八日間)を行つた(以下「本件第二事故」という。)。

6(団体傷害保険契約の締結)

被告会社は、損害保険業を目的とする株式会社であるところ、原告は、かねてより、被告会社との間に、交通事故による傷害の損害につき、一八〇日間を限度として入院一日当たり金二万八三〇〇円の割合で保険金支払いの対象とする旨の団体傷害保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結していた。

7 しかして、原告は、本件第一事故により少なくとも一八〇日間、本件第二事故により一一八日間それぞれ入院加療を受けたので、右入院期間のうち重複している昭和六二年六月一三日から同年七月二〇日までの三七日間を除く一四三日間につき、被告会社は、本件保険契約に基づき、原告に対し、金七三八万六三〇〇円の保険金の支払い義務がある。

よつて、原告は、被告会社に対し、右保険金七三八万六三〇〇円及びこれに対する原告の治療後である昭和六二年一一月一日から完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2(一)同2(一)の事実は争う。

本件第一事故は、被告車が渋滞中の本件事故現場道路の第四車線(右折車線)を微速で南進し、前方の交差点を直進予定のため左側の方向指示器をつけて微速で進行していたところ、第三車線(右折車線)上の他の車両が停止してくれたので、被告車において、第三車線に車線変更を完了した後前方に直進しかけたとき、左側方から右折してきた原告車と接触したという軽微な事故であり、被告車はほとんど速度が出ていない状態であつたから、原告が本件事故によつて受傷することは有り得ない。

因みに、本件第一事故は、物損事故として受理されている。

(二)同2(二)の事実は争う。

原告主張の入・通院は、本件事故となんら因果関係がない。

(三)同2(三)の事実及び主張は争う。

3(一)同3(一)の事実のうち、原告が原告車を運転し、本件事故現場道路を右折しようとしたこと、被告車がその右側方を直進してきたことは認めるが、その余の事実は争う。

(二)同3(二)の主張は争う。

4  同4の損害はすべて争う。

5  同5の事実は争う。

なお、原告の本件第一事故での入院自体、その症状の所見内容からとうてい入院の必要性が認め難いものであるが、本件第二事故で右血気胸が発見されており、血気胸の経過観察のために入院が必要であつたとしても、血気胸消失後せいぜい三週間ないし四週間経過観察をすれば十分であり、昭和六二年七月二四日以降の入院については、その必要性が認められない。

6  同6の事実は認める。

7  同7の主張は争う。

三  被告らの抗弁

1  被告平見に対する請求関係(予備的主張)

(一)過失相殺

(1) 本件事故現場道路は南北道路で、中央分離帯により東側の南行き車線と北行き車線とに区分されているところ、東側の南行き車線は幅員一三メートルの四車線であり、通行区分規制はないが、第一、第二車線は直進車線、第三、第四車線は右折車線となつており、はみ出し禁止規制もなく、第四車線南側にはゼブラゾーンがあり、交通規制は制限速度が時速五〇キロメートル、転回・駐車禁止となつている。

(2) 被告は、被告車を運転して、本件事故現場道路の第四車線を南進し、前方交差点手前で対面青信号を確認したが、第三、第四車線は右折車が渋滞していたので微速で進行し、直進予定のため左折指示器をつけ、左前バツクミラーで左後方を見ながら徐々に第三車線へと微速で車線変更したところ、第三車線上の右折車両が停止してくれたので、右車線変更完了後前方を見て直進しかけたとき、原告車が、直進車線である第二車線から本件事故現場道路を右折しようとして、第三車線上の前記停止右折車両の前に強引に割り込んできたため、原告車の右側面後部と被告車の左前部が接触するという本件第一事故が発生した。

(3) 以上のとおり、原告は、徐行もせず、時速三〇キロメートルで、直進車線から右折を敢行したために本件第一事故を惹起したものであり、原告には前側方注視、徐行および一時停止義務を懈怠した過失があるから、過失相殺がなされるべきである。

(二)損益相殺

原告は、本件第一事故により、労災保険から休業補償として金二二四万二七八四円(対象期間昭和六二年一月二〇日から昭和六三年一〇月三一日まで六四三日間、給付基礎日額金四三六一円)を受領しているから、右金額について損益相殺がなされるべきである。

2  被告会社に対する請求関係

(一)本件第一事故についての免責

(1) 原告の本件第一事故に基づく主症状は、事故当日に治療を受けた赤松外科医院の診断書にもあるとおり、頸部・腰部等の捻挫傷であるが、他覚的所見の認められないものである。

(2) 右は、本件保険契約の免責条項に該当するから、被告会社は、原告の本件第一事故に基づく入院について保険金の支払い義務がない。

(二)本件第二事故についての免責

(1) 傷害保険は、約款上「酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で原動機付自転車を運転している間」に事故があつた場合、保険金は支払われないものとされている。

(2) 本件第二事故は、原告が多量に飲酒し、酒に酔つて正常な運転ができない状態で原動機付自転車を運転していて発生したものであるから、被告会社は、原告の本件第二事故に基づく入院についても保険金の支払い義務がない。

四  抗弁に対する認否

1(一)(1) 抗弁1(一)(1)の事実のうち、本件事故現場道路が南北道路で、東側が四車線となつており、第一、第二車線が直進車線、第三、第四車線が右折車線になつていること、制限速度が時速五〇キロメートルで、転回・駐車禁止となつていることは認めるが、その余の事実は争う。

(2) 同1(一)(2)の事実のうち、被告が被告車を運転して、本件事故現場道路の第四車線を南進していたこと、被告車が直進しかけたとき、その左側方から右折しようとした原告車と衝突したことは認めるが、その余の事実は争う。

本件第一事故は、原告車が、第二車線からいつたん第三車線に車線変更し、右折のため第三車線において対向車両の通過を待つため停止しようとしたが、原告車が停止する直前に、第四車線を南進していた被告車が、強引に直進しようとして、右折しようとしていた原告車に衝突したものである。

(3) 同1(一)(3)の主張は争う。

右折車が、右折車線において、右後方から直進してくる車両のあることまで予測するのは通常まつたく不可能であるから、本件第一事故は、被告平見の全面的過失によるものである。

(二)同1(二)の事実及び主張は争う。

2 同2(一)、(二)の事実及び主張はすべて争う。

第三証拠

本件記録中の書証目録及び証人等目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第一被告平見に対する請求について

一  請求原因1(交通事故の発生)の事実は、当事者間に争いがない。

二  そこで、原告主張にかかる傷害の存否ないし本件事故との因果関係について判断する。

1  先ず、いずれも成立に争いのない甲第二号証の一ないし二八、第三号証の一ないし八、第四号証の一ないし一二七、第六号証の一ないし八七によると、原告は、本件事故発生日である昭和六二年一月二〇日赤松外科医院で診察を受け、同日宮地病院に転院して、昭和六二年一月二〇日から同年二月一二日まで同病院に入院し、同年二月一三日甲北病院に転院して、同年二月一三日から同年七月二〇日まで同病院に入院し、その後同年一一月一〇日から昭和六三年一〇月三一日まで同病院に通院し、それぞれ治療を受けたこと、傷病名は、赤松外科医院では、頸部・腰部・左足打撲捻挫傷とされ、宮地病院では、頸部・腰部捻挫、左足打撲捻挫とされ、甲北病院では、頭頸外傷、腰部捻挫、左足打撲捻挫とされていることが認められる。

以上の事実からすれば、原告は、本件事故により右各傷害を負つたかの如く見えないではない。

2  しかしながら、他方、右1の認定の事実に、前掲甲第二号証の一ないし二八、第三号証の一ないし二八、第四号証の一ないし一二七、第六号証の一ないし八七、いずれも成立に争いのない甲第一号証、第一〇号証、乙第一号証、第三号証、第一四号証、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第九号証、乙第六号証の一ないし六、いずれも証人林洋の証言により成立を認め得る乙第二号証、第一一号証、いずれも撮影対象については争いがなく、撮影年月日及び撮影者については原告本人尋問の結果、弁論の全趣旨により原、被告主張の写真であることが認められる検甲第一、二号証、検乙第一、二号証、証人林洋の証言、原告(ただし後記信用しない部分を除く。)、被告平見昭夫各本人尋問の結果、並びに弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。

(一)本件第一事故現場の状況は、別紙図面(以下「図面」という。)記載のとおりであるところ、被告は、被告車を運転し、本件事故現場道路を直進するつもりで、中央分離帯寄りの第四車線を右折車線とは知らずに南進していたが、途中でこれに気がつき、図面<1>地点(以下符号で示す点は、図面に表示された地点を示す。)で左側の直進車線(第一、第二車線)に車線変更するべく大幅に減速して、微速で走行しながら車線変更の機会をうかがつたものの、第三、第四車線とも右折車で渋滞していたため、そのまま第四車線を微速で走行した。そして、被告車が<2>点まで来た時、被告車の前方の右折車両がなくなり、被告車においてそのまま直進できそうな状況になつたので、被告車は、<2>点でいつたん停止したうえ、時速五キロメートル以下の速度で直進しようとしたとき、<ア>点、<イ>点、<ウ>点、<エ>点の順路で走行してきた原告運転の原告車と<×>点で接触した。被告は、直ちに急制動の措置を講じたところ、被告車は<3>点で停止したが、原告車は、右接触後そのまま前方に走り抜け、<オ>点で停止した。

(二)本件第一事故は、当初物損事故として警察に受理され、事故当日原告車及び被告車の損傷部位・程度について実況見分が行われたが、その結果によると、原告車の損傷の部位・程度は、右後部ドアー等擦過で金五〇〇〇円程度の損害であり、右側面に顕著な凹損は認められなかつたし、被告車の損傷の部位・程度も、前部左側ウインカー等破損で約金五〇〇〇円程度の損害であり、いずれも極めて軽微な損傷にすぎなかつた。

ところで、原告は、右実況見分後、同日中に本件第一事故によつて受傷した旨を訴えて赤松外科医院等を受診し、あらためて本件第一事故を人身事故として警察に届けたため、昭和六二年二月九日、再度事故状況について実況見分が実施されたが、警察は、本件第一事故を保留処分として検察庁に送致しなかつた。

(三)ところで、本件第一事故においては、前記(一)で認定の事故状況から、被告車は、衝突角約四五度、速度五キロメートルで、原告車の右側面に衝突したものと判断され、これをもとに、自動車工学の諸法則を用いて、本件第一事故によつて原告車に生じた衝撃力及び衝撃加速度を算出すると、原告車には四一三キログラムの衝撃力、したがつて〇・三Gの衝撃加速度が、左方やや後方向に働いたものと考えられる。そして、かかる程度の衝撃加速度は、自動車の乗る人にとつて特別に高いものではなく、日常なんら支障なく経験しているレベルのものであるし、この衝撃加速度では、原告の頸部への負荷トルクは、メルツ等が無傷限界値として示した値の六五分の一にすぎず、また、頸部の屈曲角は七度であり、過屈曲になるまでにはなお五九度の余裕があるなど、原告の頸部に傷病が生じたと考えるには無理があり、腰椎捻挫及び左足打撲傷等についてもそれが発症する力学的状況が存在しない。

なお、右メルツ等の実験においては、頚部を緊張させている状態及び弛緩させている状態の二とおりの実験を行つており、前記数値は頸部を弛緩させている場合の実験データとの比較をしているものであるし、一般的に、人間は、衝突を受けるということを予知していても、知覚反応時間の遅れがあるため、前記実験例と実際の衝突を予知していない人の場合とで被突条件に差異はない。

さらに、実験例によると、四一三キログラムの加圧子を四五度の角度で車両の側面にぶつけると、右側面の凹損の深さは約一三センチメートルとなることが明らかにされているが、原告車の右側面にはかかる一〇数センチメートルにも及ぶ凹損は存在しない。

(四)原告は、前記のとおり、本件事故当日最初に赤松外科医院を受診したが、同医院の診断によると、レントゲン写真上脊柱に加齢による変形症所見を認めるも、外傷性異常所見は認められないというものであり、また、宮地病院及び甲北病院に入・通院中の所見も、頭頸部のレントゲン写真上もCT上も特変が認められず、カルテに記載された原告の症状は、もつぱら、足部痛、頸肩部痛、偏頭痛、後頸部痛、眩暈、左右大後頭三又神経痛、左足関節痛、吐き気、左足背部痛といつた愁訴のみで、これに対する治療も、リハビリ、注射、神経ブロツクの繰り返しに終始していた。

(五)さらに、原告は、前記のごとく多種多様の自覚症状を訴えながら、入院中の昭和六二年六月一三日、原動機付自転車を乗り回していた。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告本人の供述部分は信用できず、他に右認定左右するに足る証拠はない。

3  しかして、右に認定したところによれば、先ず、本件第一事故により原告が受けた衝撃は、普通に自動車を運転していて走行する場合でもしばしば体験する程度の極めて軽微なものであつて、原告は、頸部・腰部・左足部にまつたく衝撃を受けていないか、ほとんど衝撃を受けていなかつたと認められるから、この程度の衝撃で頸椎捻挫、腰椎捻挫及び左足部打撲捻挫が発症するとは到底考えられないというべきである。

さらに、前記各病院で実施した原告の頭・頸部のレントゲン写真及びCT上ではなんらの異常も認められないから、結局各医師が付した傷病名は、すべて原告の愁訴のみに基づくものであつて、客観的な他覚所見と目すべき資料はないといわざるをえない。

そうすると、原告に前記各傷病があるとの診断があつたとしても、右診断の前提となつた原告の愁訴自体の真実性に強い疑念が存し、ひいては診断そのものに疑問があることが認められるから、右各診断のみによつて原告が本件第一事故により受傷したとの事実を認めることはできないというほかなく、他に、原告の右受傷の事実を認めるに足りる証拠はない。

三  よつて、原告の被告平見に対する請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないことは明白である。

第二被告会社に対する請求について

一  前掲甲第四号証の二二、乙第一四号証、いずれも成立に争いのない甲第五号証の一ないし六八、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は、本件受傷を治療するため甲北病院に入院中の昭和六三年六月一三日、神戸市北区有野町有野において原動機付自転車を運転中、道路脇の側溝に転落し、右肺損傷等の傷害を負い、その結果、右同日から昭和六二年一〇月八日まで右病院において入院治療(一一八日間)を行つたこと(「本件第二事故」)が認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

二  請求原因6(団体傷害保険契約の締結)の事実は、当事者間に争いがない。

三  また、原告が、本件第一事故により、少なくとも一八〇日間入院治療を受けたことは、既に認定のとおりである。

四  そこで、抗弁について判断する。

1  いずれも成立に争いのない乙第五号証、第九号証によると、本件保険契約の普通保険約款には、被告会社が、(1)「原因のいかんを問わず、頸部症候群または腰痛で他覚症状のないものに対しては、保険金を支払わない」旨(傷害保険普通保険約款二章三条二項、家族傷害保険普通保険約款二章六条二項、交通事故傷害保険普通保険約款二章四条二項)(以下「本件約款(1)」という。)、(2)さらに、「酒に酔つて正常な運転のできないおそれがある状態で原動機付自転車を運転している間に生じた事故によつて生じた傷害に対しては、保険金を支払わない」旨(傷害保険普通保険約款二章三条一項四号、家族傷害保険普通保険約款二章六条一項四号、交通事故傷害保険普通保険約款二章五条一項一号)(以下「本件約款(2)」という。)の各免責条項が記載されていることが認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

2(一)しかして、原告の本件第一事故を原因として発症したと主張する頸部症候群及び腰痛に関する症状が、すべて他覚症状の認められないものであることは、前記第一、二2、3において認定説示したとおりである。

そうすると、被告会社は、原告の本件第一事故を原因とする入院については、本件約款(1)の免責条項に基づき、保険金の支払い義務がないものというべきである。

(二)次に、前掲甲第四号証の二二、第五号証の五三、六八、及び弁論の全趣旨を総合すると、本件第二事故は、原告が入院中にもかかわらず多量に飲酒し、酒に酔つて正常な運転ができないおそれがある状態で原動機付自転車を運転していて転倒し、受傷したものであること、それゆえ原告は、当初病院に右事実を秘匿し、病院内においてトイレ歩行中に階段から転倒した旨を申告していたことが認められ、これに反する原告本人の供述は信用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうすると、被告会社は、原告の本件第二事故を原因とする入院についても、本件約款(2)の免責条項に基づき、保険金の支払い義務がないものというべきである。

五  よつて、原告の被告会社に対する本件保険金請求は、その余の点について判断するまでもなくすべて理由がない。

第三結語

以上のとおりであつて、原告の請求はいずれも失当であるからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 三浦潤)

別紙 <省略>

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